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賢治の声に耳をすませて

3冊目の新刊『新版 宮澤賢治 愛のうた』(澤口たまみ著)が完成しました。

挿絵の横山雄さん、装幀の宮本麻耶さん(ケルン)のお力添えで、恋をしていた賢治の一瞬の命のきらめきを閉じこめた、すてきな本に仕上がりました。

 

夕書房オンラインショップでは本日よりご注文を受け付けます。

全国の書店にもまもなく並ぶ予定なので、ぜひお手にとっていただけましたら。

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1冊目は日記、2冊目は写真集、そして今回は初めての文芸書です。

夕書房はいったい何の出版社なのか? 捉えどころのない印象を抱いていらっしゃる方もいるかもしれません(というほど認知されてはいませんが)。

でも私はこの3冊を、全く違う本であると同時に、同じ方向を向いた、夕書房らしい3冊だなと思っています。

 

澤口さんの『宮澤賢治 愛のうた』(もりおか文庫)に出会ったのは、昨年夏のことです。

まず驚いたのは、生々しい人間・宮澤賢治の姿でした。賢治の童話は好きでしたが、そのあまりに透明な世界観への憧れからか、本人については近寄りがたい聖人として、遠いところからぼんやり眺めるようなところが私にはあったと思います。

 

しかし澤口さんは本の中で、賢治と真正面から向き合っていました。

膨大な数の詩を、とことん賢治の気持ちに寄り添って読み込んでいた。その結果立ち現れてきたのは、人間・賢治が大声で叫びたい気持ちを必死に抑えながら、それでも残したかった溢れる恋心と葛藤でした。

 

賢治の声を、私を含めた多くの人は聞こうとしてこなかったのではないかーーそう感じました。

そして、これは賢治の声に限らないのではないか、と思ったのです。

 

生涯独身だった賢治の恋は、妹や親友への深いコミットメントから、近親愛や同性愛の説が一般的には有力です。でも、作品に真に向き合っていくと、声に出せなかった賢治の本当の声が聞こえてきた。そのことを澤口さんは書いていました。

世の中の出来事に対し、表面だけを見て、あるいは人の意見だけを聞いて判断するのではなく、自ら体験し、つかんだ事実を頼りにしていきたいという夕書房設立時の決意を、自らの力で体現している方がここにもいたのでした。

 

そういうわけで、このたびこうして新版として賢治の声を再び開封することができ、本当にうれしく思います。

なんと言っても澤口さんの謎解きは、とても楽しいのです。

妄想めいた謎解きに誘われて、どうか一人でも多くの方が賢治の心の声に耳をすませ、詩を読む楽しさを感じてくださいますように。

何卒よろしくお願いいたします!